下向きの犬のポーズ/ダウンドッグ
サンスクリット語: अधोमुखश्वानासन
IAST: Adho Mukha Śvānāsana
英語名: Downward-Facing Dog Pose
両手と両足で身体を支え、坐骨を斜め後ろ上方へ引き上げるアーサナです。犬が前脚を伸ばして身体を大きく伸ばす姿に似ていることから、「下向きの犬のポーズ」と呼ばれます。
全身を使う姿勢であり、ヨーガの練習では一つの独立したアーサナとしてだけでなく、アーサナとアーサナをつなぐ姿勢や、呼吸を整える姿勢としても用いられます。
基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 分類 | 立位・前屈・逆転に近い姿勢 |
| 難易度 | 初級~中級 |
| 左右 | なし |
| 保持の目安 | 初めは3~5呼吸 |
| 主に使う部位 | 手、腕、肩まわり、背中、腹部、臀部、脚 |
| 伸びを感じやすい部位 | 背中、脇、ももの裏、ふくらはぎ |
| 使用できる補助具 | 壁、椅子、ヨーガブロック |
| 練習に向く場面 | 太陽礼拝、立位の練習、全身を伸ばしたいとき。 |
| 補足 | 手首、肩、腰、膝、血圧などに不安がある場合は、無理に完成形を目指さず、壁や椅子を使った方法を選びます。 |
名前の意味
名称は、次の言葉からできています。
- adhas/adho(アドー): 下に、下方へ
- mukha(ムカ): 顔、顔を向けた
- śvāna(シュヴァーナ): 犬
- āsana(アーサナ): 坐法、姿勢
したがって、Adho Mukha Śvānāsanaは「顔を下へ向けた犬の姿勢」という意味になります。
日本では「下向きの犬のポーズ」のほか、英語名の Downward-Facing Dog を縮めた「ダウンドッグ」という名称も広く使われています。
このアーサナで育てるもの
身体面
両手と両足で床を押し、体幹を保ちながら背骨を長く伸ばします。腕や肩だけで身体を支えるのではなく、脚、骨盤、腹部、背中を連動させることが大切です。
また、膝を伸ばすことよりも、坐骨と手の距離を広げるようにして、背中に十分な長さを作ることを優先します。
動作面
- 手と足で床を押す感覚
- 肩甲帯と体幹の安定
- 背骨を長く保つ感覚
- 腕、胴体、骨盤、脚の連動
- 身体の前後や左右の偏りへの気づき
呼吸と集中
姿勢を保ちながら、呼吸がどこへ入っていくかを観察します。特に背中や脇の広がりを感じやすい姿勢です。
呼吸を止めなければ保てない場合は、保持時間を短くするか、膝を曲げて姿勢を調整します。
練習前の準備
手首、肩、背中、股関節、脚を軽く動かしてから行います。
準備として、次のような動きが適しています。
- 手首をゆっくり回す
- 四つ這いで背中を丸めたり反らしたりする
- バラーサナで背中と脇を伸ばす
- 四つ這いで片脚ずつ後ろへ伸ばす
- 膝を曲げた前屈で、ももの裏を無理なく伸ばす
手が滑らないよう、安定した床またはヨーガマットの上で練習します。
実践方法
全体の流れ

具体手順
1.四つ這いになる

肩の下に手首、骨盤の下に膝を置きます。手の指を広げ、手のひら全体を床につけます。
中指または人差し指を、おおむね正面へ向けます。
2.つま先を立てる
息を吐きながらつま先を立て、手で床を押します。

3.骨盤を持ち上げる
膝を床から離し、坐骨を斜め後ろ上方へ引き上げます。最初は膝を十分に曲げて構いません。

4.背骨を長くする
手で床を前方へ押しながら、骨盤を後方へ遠ざけます。
かかとを床へつけることよりも、背中と脇を長く保つことを優先します。

5.姿勢を整える
首の力を抜き、頭を両腕の間に置きます。ただし、頭を無理に腕の間へ押し込む必要はありません。
肩を耳へ近づけすぎず、腕、肩、背中が無理なくつながる位置を探します。この時、肩と耳と距離が狭いと、かかとではなく、手に重心が乗ってしまい、肩などを痛めてしまいます。なので手の幅はマット幅にするとかかと重心になりやすくなります。
この時手をマット幅にすることだけに意識がいって呼吸が止まってしまう事があるので、呼吸と一緒に動くようにしてください。

6.呼吸を続ける
初めは3~5回、ゆっくりと呼吸します。
吸う息で背中や脇が広がり、吐く息で手足が床を安定して押す感覚を観察します。

7.安全に戻る
息を吐きながら両膝をゆっくり床へ下ろします。

必要に応じてバラーサナになり、手首、肩、呼吸の状態を確認します。
練習中の確認ポイント
- 呼吸を止めていないか
- 手のひらが内側または外側へ偏っていないか
- 手首だけに体重を集めていないか
- 肩や首を強く緊張させていないか
- 背中が大きく丸まっていないか
- 膝を伸ばすことを優先しすぎていないか
- 肘や膝を反らせすぎていないか
- 左右の手足にかかる重さが大きく違っていないか
- 関節に鋭い痛みが生じていないか
ももの裏が硬い場合、膝を曲げることは間違いではありません。膝を曲げることで背中を長く保てるなら、その形が現在の身体に適した練習です。
やさしい練習
膝を曲げる
膝を十分に曲げ、かかとを床から離します。腹部と太ももの間に少し余裕を作り、坐骨を後ろ上方へ引きます。
初心者だけでなく、背中の長さや骨盤の動きを確認したい場合にも適しています。
壁を使う
両手を肩の高さで壁につき、足を後ろへ移動させます。上半身が床とほぼ平行になる位置まで骨盤を後ろへ引きます。
手首へかかる負担を軽くしながら、背中や脇を伸ばす方向を学べます。
椅子を使う
安定した椅子の背または座面に両手を置き、骨盤を後ろへ引きます。椅子が滑らないよう、必ず壁などで固定します。
床に手をつくことが難しい場合や、頭を低くした姿勢を避けたい場合に使えます。
基本の練習
膝を無理なく伸ばし、背骨を長く保ちます。かかとは床につかなくても構いません。
完成形の外見よりも、次の三方向の働きを意識します。
- 手で床を押す
- 坐骨を後ろ上方へ引く
- 脚で床を押す
この三つがつながると、一部分だけに負担を集めず、全身で姿勢を支えやすくなります。
発展的な練習
基本姿勢を安定して保ち、呼吸を自然に続けられる場合は、次の練習へ発展させられます。
- 片脚を持ち上げる
- 片手で反対側の脚に触れる
- アドー・ムカ・シュヴァーナーサナからプランクへ移動する
- 太陽礼拝の流れの中で行う
発展形では左右差や体幹のねじれが生じやすいため、脚を高く上げることよりも、骨盤と肩の安定を優先します。
よくある無理と調整方法
かかとを床につけようとして背中が丸くなる
膝を曲げ、かかとを浮かせます。かかとの位置より、背骨の長さを優先します。
手首が痛む
指を広げ、指のつけ根と手のひらへ圧を分散します。それでも痛みがある場合は中止し、壁や椅子を使います。
肩や首が苦しい
保持時間を短くし、肩の位置を調整します。頭を無理に両腕の間へ入れず、首の力を抜ける位置を探します。
ももの裏が強く引っ張られる
膝を曲げます。筋肉が伸びる感覚と、鋭い痛みや神経が引かれるような感覚は区別します。
腰が丸くなる
膝を曲げ、坐骨を後ろ上方へ引きます。脚を伸ばすことよりも、骨盤から背骨へ続く長さを取り戻します。
注意点
次のような場合は、自己判断で無理に行わず、必要に応じて医師や専門知識を持つ指導者へ相談してください。
- 手首、肘、肩に痛みやけががある
- 椎間板や坐骨神経などに関わる症状がある
- 眼圧や血圧について医師から運動上の指示を受けている
- 頭を心臓より低くする姿勢を避けるよう指示されている
- めまい、頭痛、吐き気がある
- 妊娠中または手術後である
練習中に鋭い痛み、しびれ、めまい、吐き気、視覚の異常などを感じた場合は、直ちに姿勢を解いて休みます。
このページは一般的な練習方法を紹介するものであり、病気やけがの診断・治療を目的とするものではありません。
組み合わせ例
短い練習
- 四つ這いで背中を動かす
- バラーサナ
- アドー・ムカ・シュヴァーナーサナ
- 膝を曲げたやさしい前屈
- ターダーサナ
太陽礼拝の中で
アドー・ムカ・シュヴァーナーサナは、太陽礼拝の中で呼吸を整え、次の動作へ移るための姿勢として用いられます。
この前に行いやすいアーサナ
- マールジャーラーサナとビティラーサナ
- バラーサナ
- プランク
- ウッターナーサナ
この後に行いやすいアーサナ
- アシュヴァ・サンチャラナーサナ
- プランク
- バラーサナ
- ウッターナーサナ
犬の姿が教えるもの
犬が伸びをするとき、決められた完成形を作ろうとはしません。前脚で大地を押し、背中を長く伸ばし、その瞬間に必要な動きを全身で行います。
アドー・ムカ・シュヴァーナーサナでも、かかとが床につくことや、図と同じ形になることが目的ではありません。
手と足で大地に触れながら、身体の中心から四肢へ力が伝わる方向を感じること。そして、力を使いながらも呼吸を失わないことが、このアーサナの重要な学びになります。
安定とは、身体を固めて動かなくすることではありません。呼吸や身体の状態に応じて調整を続けながら、姿勢を保つことです。
🔗リンク
アーサナとは
スーリヤ・ナマスカーラ(太陽礼拝)
バラーサナ
ウッターナーサナ
プランク
呼吸とアーサナ
アーサナにおける安定と快適さ