定義
アシュターンガ(aṣṭāṅga/अष्टाङ्ग)は、ヤマからサマーディに至る八つの部門を通じて心のはたらきを鎮め、解放へと向かうヨーガの道です。
解説
アシュターンガとは、ヨーガの実践を八つの部門に分けて示した体系です。聖者パタンジャリが『ヨーガ・スートラ』に記したもので(YS 2.29)、外に向かう身体や行いの整えから、内へ向かう心の集中へと、段階を追って深まっていきます。
八つは、順に、ヤマ(他者への態度)、ニヤマ(自分への態度)、アーサナ(坐法)、プラーナーヤーマ(調気)、プラティヤーハーラ(感覚の制御)、ダーラナー(集中)、ディヤーナ(瞑想)、サマーディ(三昧)。前の五つは外的な準備、後の三つは内的な深まりとされ、最後のサマーディにおいて心のはたらきが完全に静まるとされます。
「八支」という訳をめぐって
「八支」「eight limbs」という訳語は、原語 aṅga(枝・肢体)に由来します。この語をどう捉えるかで、八支則の理解が分かれます。
一つは、下から上へ登る階段として読む見方。つまりヤマを土台に、一段ずつサマーディへ登っていくという理解です。
もう一つは、木の枝や体の手足のように、同時に育ち、分ちがたく結びついた部分として読む見方です。aṅga が本来「肢体」を意味することからすれば、八つは順序というより、一つの実践の八つの側面だとする理解です。語源的にはこちらが有力とは言えます。
しかし、実際にはどちらか一方が正しいというより、この体系は両様に読まれてきました。学び始めには段階として捉え、深まるにつれて同時的なものとして捉え直す、そうした重層性を、この語は含んでいます。
語源
アシュターンガ(aṣṭāṅga)は、アシュタ(aṣṭa/अष्ट、八)と アンガ(aṅga/अङ्ग、枝・肢体)の複合語です。連声により aṣṭa + aṅga → aṣṭāṅga となります(a + a → ā)。
アンガは、木の枝、体の手足、全体を構成する部分を指す語です。「八つの枝」というこの名そのものが、八支則を一本の木として、幹から分かれながらも一つに連なるものとして、思い描くよう促しています(→解説欄の注記)。
ヨーガ・スートラとの関係
アシュターンガの出典は、聖者パタンジャリの『ヨーガ・スートラ』(YS)です。全four章のうち、第2章「サーダナ・パーダ(実践の章)」に置かれています。
この章でパタンジャリは、まず初学者向けにクリヤー・ヨーガ(実践のヨーガ)を示します。苦行(タパス)、自己探求(スヴァーディヤーヤ)、神への献身(イーシュヴァラ・プラニダーナ)の三つからなる、日々の実践です(YS 2.1)。そのうえで、より体系的な道としてアシュターンガを説きます(YS 2.29)。
八支のうち、前の五支(ヤマからプラティヤーハーラまで)は第2章で、後の三支(ダーラナー・ディヤーナ・サマーディ)は第3章「ヴィブーティ・パーダ」で詳しく論じられます。つまりアシュターンガは、二つの章にまたがって説かれるわけです。最後の三支はとりわけ密接に結びつくため、パタンジャリはこれを合わせてサンヤマ(綜制)と呼びます。
なお、パタンジャリ自身がこの体系を aṣṭāṅga yoga(八支のヨーガ)と名づけています(YS 2.29)。八支則という枠組みは後代の解釈ではなく、原典そのものに由来します。
バクティ・ヨーガとの関係
アシュターンガとバクティ・ヨーガは、しばしば対照的な道として語られます。前者が心を制御し、段階的に集中を深めていく自力的な道であるのに対し、後者は神への信愛にすべてを委ねる他力的な道だとされます。実際、四大ヨーガの区分では、アシュターンガは瞑想を軸とするラージャ・ヨーガに、バクティは信愛の道に、それぞれ位置づけられます(→四大ヨーガ)。
しかし、両者は截然と分かれるものではありません。その結び目が、イーシュヴァラ・プラニダーナ(īśvara-praṇidhāna/ईश्वरप्रणिधान、神への献身)です。
この語は、アシュターンガの内部に二度現れます。一つはニヤマ(第二支)の五つ目として。もう一つは、先に触れたクリヤー・ヨーガの一要素として。つまりパタンジャリは、神への献身という信愛の実践を、自力の体系のなかに組み込んでいるのです。心を制御する道の途上に、委ねることが置かれている、つまりアシュターンガは、純粋な自力の道ではないのです。
ここに、二つの道の交わりが見えます。バクティが「信愛から入って解放に至る道」だとすれば、アシュターンガは「自己の制御を軸としつつ、その要所に信愛を含む道」です。同じイーシュヴァラ・プラニダーナという語が、バクティの世界とパタンジャリの世界を結んでいるわけです(→イーシュヴァラ・プラニダーナ)。
🔗リンク
八つの支
ヤマ(yama/यम)
ニヤマ(niyama/नियम)
アーサナ(āsana/आसन)
プラーナーヤーマ(prāṇāyāma/प्राणायाम)
プラティヤーハーラ(pratyāhāra/प्रत्याहार)
ダーラナー(dhāraṇā/धारणा)
ディヤーナ(dhyāna/ध्यान)
サマーディ(samādhi/समाधि)
後三支をまとめる語
サンヤマ(saṃyama/संयम)
典拠と、その周辺
ヨーガ・スートラ(Yoga-sūtra/योगसूत्र)
パタンジャリ(patañjali/पतञ्जलि)
クリヤー・ヨーガ
他の道との結び目
イーシュヴァラ・プラニダーナ(īśvara-praṇidhāna/ईश्वरप्रणिधान)
バクティ・ヨーガ
四大ヨーガ